投稿内に広告が含まれています

映画「PERFECT DAYS」に、そこはかとなく漂う村上春樹感

観たいと思いながら、何やかやで映画館に行く暇もなかった映画が、Amazonプライム・ビデオ対象になったので観た。
「PERFECT DAYS」だ。
※ 以下ネタバレを含む内容となっている。気になる方は先に視聴することをお勧めする。

PERFECT DAYS

東京で公衆トイレ掃除の仕事をしている、古びたアパートに住む初老のヒラヤマ。
毎朝夜明け前に起き、掃除道具を満載にした軽自動車で各所のトイレを回り、昼過ぎには銭湯に行き、行きつけの地下の居酒屋で一杯やり、寝床で文庫本を読みながら眠りにつく…
休みの日には汚れ物をコインランドリーで洗濯し、カメラ屋で撮ったフィルムを現像してもらい、古本屋で一冊100円の文庫本を買い、行きつけのスナックで一杯やる…
そんな日々を繰り返している。

ある日、姪のニコが家出してくる。
久しぶりに会ったニコを、ヒラヤマは暖かく迎える。
迎えに来たニコの母親、ヒラヤマの妹に、帰りたがらないニコを諭し送り出す…

主人公のヒラヤマとは

ヒラヤマは極端に無口で、感情をほとんど表に出さない男だ。

ヒラヤマの過去は、具体的に語られることはない。
妹がニコを迎えに来た時、ヒラヤマと妹の父親は認知症で施設にいることが分かる。
「お父さん、昔と違うから一度会いに行ってあげて」という妹に、ヒラヤマは黙って首を振る。
妹は運転手付きの車に乗るほど、セレブのようだ。
妹が手土産にとヒラヤマにわたしたものは、鎌倉の有名なお菓子らしい。
これでヒラヤマの実家は鎌倉で、しかもかなりの資産家だろうということが想像できる。

おそらくヒラヤマは実業家(?)の父親と喧嘩して、家を飛び出して来たのだろうと僕は想像する。

そこはかと漂う村上春樹感

僕は「PERFECT DAYS」を観て、どういうわけか村上春樹作品を想起した。
ヒラヤマが仕事に向かう車内で聴く曲は、ほとんどがカセットテープの洋楽だ。
村上RADIOで紹介されてそうな曲が多い。
読書家であるところも、村上作品の主人公を思わせないこともない。

とはいえヒラヤマは、羊をめぐって冒険することもないし、妻が突然失踪することもないし、屋根裏部屋から古い肖像画を発見することもない。
淡々とした変化の少ない日々を送るだけだ。

村上作品の主人公ならパスタを茹でたり、サンドイッチを作ったり自炊することが多い。
ヒラヤマは外食ばかりで、家での食事は後輩のタカシに金を貸して金欠になったとき食べた、賞味期限切れ(?)のカップラーメンくらいだ。

総じてヒラヤマは、スタイリッシュとは対局にいる人間だ。
でもなぜか僕は、村上作品を想起した。
他にそんな人はいないだろうか、と思い “PERFECT DAYS 村上春樹” で検索してみると、僕と同じ思いの人が少なからずいた。
やはり村上春樹ファンで「PERFECT DAYS」を観た人は、そう思う人もいるようだ。

あとヒラヤマは自分のことを “僕” という。
ニコに缶コーヒーを買う時も「僕のと同じでいい?」といい、スナックのママの元夫と影踏みする時も「僕、鬼をやります」といっている。
これくらいの年齢の人なら “おれ” とか “わたし” とか言いそうなのだが、“僕” というのも村上春樹的かもしれない(これもヒラヤマの育ちの良さを表している)。

まとめ

2時間強の長い映画だ。
しかもヴィム・ヴェンダース監督の作品を観るのは初めて。
長い変化の少ない映画が苦手なので、何日かに分けて観る覚悟だったのだが、一気に観てしまった。
しかも翌日、もう一度観たくなって観てしまった。

意外と(?)面白く心に響いた映画だったから、感想を記録しておく意味で思いつくまま書いた。
この映画も、村上作品を何度も再読するように、何度も観返す映画になるのかもしれない。
今後も新しい発見があったら追記したいと思う。

今度は今度、今は今…

PERFECT DAYS
Amazonプライム・ビデオ