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村上春樹の最新長編「街とその不確かな壁」は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編か!?【追記あり】

2023年3月1日、村上春樹の最新長編が発表された。
タイトルは「街とその不確かな壁」。
発売は2023年4月13日だ。

※ これ以降「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の内容、結末に言及している部分がある。1985年、40年近く前に刊行された作品なので、いまさらネタバレもないと思うが念のため…

「街とその不確かな壁」と「街と、その不確かな壁」

村上春樹のファンなら、そのタイトルにゾワゾワしたはずだ。
門外不出の中編小説「街と、その不確かな壁」と(ほぼ?)同じタイトルだからだ。
違いは読点、“、” が “街と” の後に付いているかいないかだけだ。

芥川龍之介賞の候補になった「1973年のピンボール」の後に書かれた第3作目、「街と、その不確かな壁」を村上春樹は失敗作とし、未だに単行本化されていない。
しかし、これを何とかしたいという思いから、新潮純文学書下ろし特別作品として書かれた「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の “世界の終り” のパートとして生かされた(内容は少し異なる…)。

ということで、村上春樹の最新長編「街とその不確かな壁」の3つの可能性について考えてみたいと思う。

「街とその不確かな壁」の3つの可能性

「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」続編

以前、村上春樹が「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編を書いているという噂があった。
いつぐらいのことか忘れてしまったが、「1Q84」と「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の間くらいではなかったかと思う。
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んで、「って、続編じゃねえじゃん…」と思った記憶がある。
それで、しばらく噂については失念していたのだが、最新作のタイトルを見て思い出したのだ。

それで噂の時期などを調べようとネットを探ったのだが、ない。
そういう噂があったことは、誰も言及していない。
もしかして僕の幻想、妄想であったのかもしれない…

とはいえ、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」に「街と、その不確かな壁」の要素が使われている限り、「街とその不確かな壁」が「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編である可能性は捨てきれない。

「街と、その不確かな壁」のリライト

新潮社の特設ページにある「街とその不確かな壁」の紹介文には、こう書かれてある。

その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。

ここにある “封印された“物語”” とは、村上春樹が単行本化しないとしていた、中編小説「街と、その不確かな壁」のことではないだろうか。

また、村上春樹は、「村上春樹全作品 1979~1989〈4〉」に付属している冊子「自作を語る」の中で、「街と、その不確かな壁」を “このテーマでもの書くのはやはりまだ時期尚早だった” と書いている。
「街と、その不確かな壁」が掲載されたのは、1980年9月号の「文學界」だから村上春樹が31歳。
今年村上春樹は74歳だから、もはや “時期尚早” という年齢でもないし、作家として十分な経験と実績、実力を持っている。
このあたりで、唯一の失敗作として単行本化もされていないこの作品を。リライトしようと考えてもおかしくはないだろう。

しかし、どういうわけか冊子「自作を語る」では、「街と、その不確かな壁」は「街とその不確かな壁」と表記されている…

まったく関係ない別の話

「街とその不確かな壁」というタイトルはミスリード。
中編小説「街と、その不確かな壁」とも、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」とも関係がない、まったく別の新しい物語。
ならば、こんな紛らわしいタイトルを付ける必要がないだろうから、そんなことはないと思うけど…

個人的な予想(妄想)

個人的には、まだ「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編という可能性を捨てきれていない。
村上春樹は、「羊をめぐる冒険」の続編「ダンス・ダンス・ダンス」のように、数年置いて続編を書くこともある(とはいえ今回は40年近いブランク…)。
したがって「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編という可能性はあるのではないか。

前述のようにタイトルがタイトルだし、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の最後も “私” も “僕” も中途半端なまま終わっている(はっきりとしたオチをもって終わる大衆小説と違い、純文学はオチもなく終わるものが多いので、それはそれで良いのだが)。
続きがあってもおかしくないラストだ。

そして何より、中編小説「街と、その不確かな壁」は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の “世界の終り” パートで、すでにその仕組みが使われている。同様の仕組みを使って、似たような別の話をつくる必要があるだろうか。

というわけで(?)、「街とその不確かな壁」は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編だと想定し、僕なりのストーリーを妄想してみよう…

 晴海埠頭で博士の娘によって回収された昏睡状態の “私” は、博士の研究室に運び込まれる。あらゆる最先端医療技術、科学技術を用いても意識が回復することはなかった。とりあえず当初の予定どおり、冷凍保存することになり処置が施される。
 一方、南のたまりから壁の外に脱出した “影” だったが、“僕” と自分が壁の内と外に別れてしまうことは良くないことに気づく(“僕” と “影” が壁の内と外に分かれる → “私” の脳が右脳と左脳に分離される = “私” の意識が失われる)。
 やはり “僕” を壁の外に連れ出し、再び合体しなければならない。 “影” は再び「世界の終り」に潜入し、“僕” を救出しようとする。
 壁の中に入ることができるのは、西の門だけだ。西の門は、一日に朝と夕の2回、一角獣の出入りのため門番によって開けられる。その時を狙って “影” は、再び壁の中に入ることができた。
 外からの不法侵入者を倒すため、 “影” の前に立ちはだかったのはナイフマニアの大男 門番だ。 門番は自慢のナイフと体力を最大限に利用し “影” に襲いかかる。門番にやられそうになった時、助けてくれたのは心を残している発電所の管理人だ。管理人は秘技、100万ボルトを使い門番の動きを止める。電力を使い切った管理人は、そのまま息絶える。その一瞬のすきをつき、“影” は相手のナイフを門番に突き刺し、なんとか勝利を得る。
 次に “影” の相手は、知的戦略の専門家 大佐。大佐が張り巡らせたトラップに翻弄される “影”。なんとかトラップをかい潜り、大佐に肉薄する。接近してしまえば、老人である大佐は “影” の敵ではなかった。
 街の心臓部である図書館に潜入する “影”。その前に現れたのは、なんと図書館の少女だ。心が残っていた母を森に追放し、真の「世界の終り」の支配者になった少女こそ、この世界のボスキャラだ。図書館の少女を倒し街に住人がいなくなれば、壁は崩れ街も崩壊するはずだ。“僕” も否応なく「世界の終り」を脱出し、“影” と一体化するに違いない(そうすれば “私” の意識も戻る…)。
 果たした “影” は図書館の少女を倒し、“僕” を救出することができるのか、そして “私” の意識は戻るのだろうか!?
 世界の終りに一角獣の鳴き声が響きわたる…

まとめ

「街とその不確かな壁」のことを考えているうちに、こんな妄想をしてしまった。
村上作品は、こんな俗っぽいマンガのようなものではない。
多くの村上春樹ファンに、そして何より村上春樹にお詫びしなければならない。
ごめんなさい(でも、こんな楽しみ方も、村上作品の楽しみ方のひとつだったりして…)。

いずれにしても、約1ヶ月後には「街とその不確かな壁」がどういう作品か分かる。
その日を楽しみにしよう。

【追記】

「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の続編ではなかったね。
ちょっと残念…

 
[文中敬称略]

街とその不確かな壁 Kindle版
村上春樹