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iPad miniで書かれた芥川賞受賞作品「ハンチバック」【追記あり】


先日、第169回の芥川龍之介賞・直木三十五賞の発表があった。
芥川賞は市川沙央の「ハンチバック」、直木賞は垣根涼介の「極楽征夷大将軍」と永井紗耶子の「木挽町のあだ討ち」が受賞した。

垣根涼介は「ヒートアイランド」シリーズや「ワイルド・ソウル」などの冒険小説を、十数年前に読んだ記憶がある。

永井紗耶子は今回始めて知った(時代・歴史小説はあまり読まない…)。

しかし最も僕の興味を引いたのは、市川沙央の「ハンチバック」だ。

ハンチバック

重度障害者の井沢釈華は、両親が残したワンルームマンションを改造したグループホームに住んでいる。
他にもいくつかのマンションの家賃収入と、数億円の遺産で生活には困っていない。
ふだんはコタツ記事やTL・BL小説などをWEBに投稿し、その収益をあちこちに寄付するなど優雅な生活を送っている。

一方でSNSの裏アカウントに「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」「普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢」などと書き込んでいる…

ハンチバック(hunchback)とは、せむしのこと。
そういえば、今は「ノートルダムの鐘」と名を変えた作品の原題は、「THE HUNCHBACK OF NOTRE DAME」だったな。
「せむしの仔馬」という童話もあったけど、コンプライアンスの問題で改題されている。

作者の市川沙央自身も筋疾患先天性ミオパチーで、車椅子と人工呼吸器が手放せない。
しかし僕が興味を持ったのは、そこではない。
市川沙央がiPad miniで小説を書いているというところだ。

市川沙央はガジェッターでヲタク!?

冒頭からいきなりWordPressのHTMLのタグが出てくる。
本文中にも “西新宿の探偵沢崎” や “ミサトさんぽく” など、知らなければ分からないヲタクっぽい表現が多々ある(個人的には、こういうのは楽しい…)。
これらに対する説明は、ほとんどない。
知っていることが前提なのか、まぁ知らなくても話を理解するのに問題はないけど…

iPad miniで執筆する以前は、docomoのブラウザボードやシャープのザウルスを使っていたという。
かなりのガジェットヲタクなのかもしれない。
今はiPad miniで第一稿を書き、ノートパソコンで清書しているという。
「ハンチバック」の主人公 井沢釈華もiPad miniで執筆で執筆している。
ガジェットの進化は、身体障害者にも優しいのかもしれない。

紙の本は健常者のマチズモ!?

そんな斜め上からの興味で読んだ「ハンチバック」ではあったが、まんまと作品の趣旨に絡め取られた。

  • 目が見える
  • 本が持てる
  • ページがめくれる
  • 読書姿勢が保てる
  • 書店へ自由に買いに行ける

この5つの条件を満たしていることが、紙の本に対する “健常者の特権性” だという。

僕は数年前から電子書籍(Kindle)に移行し、紙の本はほとんど購入していないが、この視点はなかった。
幸か不幸か、僕のまわりには重度障害者はおらず(そもそも友人・知人が極端に少ない…)、実感としてこういう感覚はなかったのだ。
そういう意味でも、新たな視点を与えてくれる有意義な小説だった。

【追記】

と思ったけど、かなり近いところまで電子書籍(Kindle)を分析してたようだ。

久しぶりに紙の本を読むとKindle(電子書籍)のありがたさがよく分かる…

重度障害者とは関連付けていなかったけど…

まとめ

市川沙央は、これまでSFやライトノベルを書いてきたという。
それらは、コバルト・角川ビーンズ小説大賞・電撃小説大賞・ハヤカワSFコンテスト・日本ファンタジーノベル大賞に応募したという。
去年一番自信があったファンタジーが落選し、もう駄目だと思って純文学に転向し文學界新人賞に応募して、みごと第128回文學界新人賞を受賞した。

その後芥川賞まで受賞する作家を落選させたコンテストの選者はどういう気持なのだろうか。
個人的には繰り上げ当選させ、ぜひ電子書籍として出版して欲しい。
市川沙央が書くSFを、ぜひ読んでみたい。

[文中敬称略]

ハンチバック
市川沙央